「おーい。わきむらさーん。おーい。」
家の前から叫び声が聞こえる。インターホンはない。朝から人が訪ねてくることはよくあることだ。
寝ぼけながらも10秒で着替えを済まし、
いかにも起きていましたという表情で戸を開ける。
島の男たるもの早起きでなければならない。と、勝手に思い込んでいるので何故かいつも取り繕ってしまう。
訪ねてくるのはほとんどが元島民のおじいちゃんだ。一年を通して見ると墓参りなどで多くの元島民が帰ってきており、特に数人は頻繁に帰ってくる。
汐待だったり、近況報告だったりと大した要件はないのだが、自らの郷で何かしようとしている若者を気にかけてくれているようだ。
彼らは海や島のこと。ありとあらゆることを話してくれる。何気ない昔話がほとんどだが、長年島で生活をしていた彼らの知識や価値観からは力強さを感じる。
ある日は「昔は一年中、芋ばっかりたべていた」と、どこか誇らしげに話す。
島の古民家(島に限らないと思う)の床下には、芋ツボと呼ばれる人が入れるくらいの大きな穴が開いている。芋ツボへ一年分の芋を貯蔵していたらしい。(残念ながらマツシマ荘の芋ツボは埋められており、コンクリートの土間が四角く切り取られた痕跡だけがある。)
比較的温度が一定な地中は、芋の貯蔵にうってつけのようだ。
松島で暮らしていた多くは半農半漁。つまり生活の全てが自然環境の中だった彼らは、挙げるときりがないほどに物知りで、生きるすべを持っている。それが力強さの根源なのだろう。
そんな彼らのように逞しく。そして面白いと思えるような空間を創りたい。
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